ハウステンボス

ハウステンボスはオランダの街並みを再現したテーマパークで設計者は株式会社日本設計です。

私は日本設計が運営するハウステンボス設計室でオープンまでの３年間、主に建物の外装デザインに従事しました。ハウステンボスは増築を重ねて建設拡充土地がなくなってしまった長崎オランダ村の姉妹施設として大村湾の工業団地用埋め立て地に計画されました。オランダの干拓地と長崎の埋め立て地という類似した建設環境の中で、各分野専門家の徹底したリサーチのもと、可能な限りオランダのリアルな街並みが再現されています。設計チームは設計事務所、ゼネコン、デザイン会社から集められたメンバーの混成チームでしたが、その情熱と結束には素晴らしいものがあり、よーく観察していただければ園内各所でそのすごさを確認することができます。オープンから３０年がたち、その運営に試行錯誤を重ねられて、集客のための余興やアトラクションばかりが目立つようになってしまいましたが、遊園地として立地が良いとは言えません。もっと心が通うローカルな工夫を取り入れて、余暇をゆったりと過ごす場として、家族や仲間とのコミュニケーションの場として充実し、存続していく事を願っています。

今や誰も語る事のないハウステンボスを解説します。

Huis Ten Bosch is a theme park that reproduces the streets of the Netherlands, and the designer is Nihon Sekkei Co., Ltd. I was mainly engaged in the exterior design of the building for three years until the opening at the Huis Ten Bosch design room operated by Nihon Sekkei. Huis Ten Bosch was planned on reclaimed land for an industrial park in Omura Bay as a sister facility of Nagasaki Holland Village, which had run out of land for construction expansion after repeated expansions. In a construction environment similar to that of reclaimed land in the Netherlands and reclaimed land in Nagasaki, the streets have been reproduced as realistically as possible based on thorough research by experts in each field. The design team was a mixed team of members gathered from design offices, general contractors, and design companies.

I will explain Huis Ten Bosch, which no one talks about anymore.

長崎県佐世保市　ハウステンボス

ハウステンボスの中心スタッドハウスです。オリジナルはハウダー市の元市庁舎です。ハウステンボスの建物全般に言えることですがかなり忠実にしている上に、オリジナルにみられる粗野な部分やアンバランスな部分を日本風に優雅にアレンジしています。ハウダーは日本語発音ではゴーダでチーズで有名な町です。昔は租税もチーズで納められました。左の建物はホテルアムステルダムで今や園の中で泊まれる唯一のホテルです。反対側の部屋は海に面しているのですが夜は暗くて何も見えません。広場に面したこっち側は夜でもにぎやかです。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

ゲート入ってすぐにあるナイアンローデ城です。玉ねぎ型の塔と建物手前の２本の塔の出来栄えが秀逸です。本物はブルーケルンという土地にありますが、もう少しずんぐりしています。この城の原型が作られた13世紀はまだスペインの支配下にあり複数の諸侯が地方を治めていました。オランダが独立したのは1600年代初めです。イギリスが協力してスペインから独立したのですがこの50年後にイギリスと戦争になります。蘭英戦争です。３回戦争してどちらが勝ったかも曖昧でしたが両国とも東インド会社がめざましい発展を遂げます。ハウステンボスとは関係ありませんが、ニューヨークは昔ニューアムステルダムと言いました。この戦争でイギリス統治に代わりニューヨークになりました。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

手前にアムステルダム港町の建物が並んでいます。実際はこのような建物は運河に面して建てられた倉庫と住居ですがここでは中はホテルです。都市部では京都と同じで間口の広さで税金の額が決まったために奥に細長い建物が多く建てられました。また面積を少しでも広げようと上部が前に傾斜したものも見られます。オランダには何とかダムという地名が多いですが、干拓のために作られたダム（堤防）の上に作られた街なのでそう呼ばれます。オランダはほとんど山がなく国土の30％が海面より低く、国土の20％が干拓地です。左奥に見える塔はユトレヒトにあるドムトールン（大聖堂の高い塔）です。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

画面左にあるのは、スニークという町にある水門です。オランダは海面より低い町が多く海とつながる運河では潮の満ち干に合わせて常に水位の管理をしなければなりません。この水門は運河を渡る橋の機能も備えたかなりクラシックな建物でオランダでも有名です。とんがり屋根の下にある半円形が並んだ飾りなど職人さんと共に一生懸命作りました。写真左側の建物の上の方にある突き出し棒は滑車を取り付けて船に積まれた貿易品を階上にあげるクレーンの一部です。ですからオリジナルの建物は運河に面しています。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

跳ね橋はオランダのあらゆる場所で見られます。ハウステンボスでは潮の満ち干の関係で水面とグランドラインの高さにかなりの段差がありますがオランダでは運河の水面がもう少し地面と近いので船が通るときは跳ね橋を上げないといけません。オランダやベルギーは国土全体に運河がめぐらされており、このような水門をいくつもくぐって内陸部へと通じます。このような運河はヨーロッパ全体に見られ、たいていどこの都市にも船で行けます。例えばこの橋をこえて運河を進み、マース川に出、ベルギーをこえてフランスでエルス川を進めばパリに行けます。かなり苦労するとは思いますが。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

これらの建物の多くは商家の邸宅兼オフィスとして建てられたものです。実際にはもちろん一軒ずつ独立していますがハウステンボスではこれらの建物は実は一体構造で、軒の高さを変えたり、建物のデザイン、窓の高さ、レンガの色等を変えて別々の建物に見えるように工夫しています。間に見られる小さい間口の建物の多くは通りよりひとつ奥の邸宅に行くための玄関廊下の入り口です。オランダでは運河の脇にカフェテーブルや自動車、自転車、ゴミ箱等が置かれてもっと雑然としています。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

左の白い建物は私がハウステンボスで最も好きな建物です。窓回りの装飾など全くエレガントです。屋根下の軒の出（コーニス）とその下につけられた飾り腕木（ブラケット）とが作る影は絶妙です。関賢一さんという方がデザインしました。このような控えめな建物こそ、実際にデザインしてみたら大変難しいことがわかります。この中には当初は豪華絢爛なディスコがありました。今はゲームセンターになっていますが、まだ内装は壊されていないので是非復活してほしいものです。その二つ右隣の建物の屋根部分の形はコーベル（牛の鐘）と言います。クレーン棒と屋根裏倉庫へ通ずる扉が設けられています。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

画面左の建物は一階のファサードに付け柱を配置しその間にショーウインドウがあるオランダでは最もポピュラーな店舗建築です。壁の白色とうすいレンガの色の組み合わせがきれいです。屋根の瓦の色とも調和しています。窓と窓の中間にある金物はアンカーと言ってもともと木造建物の全面壁のみ煉瓦を積んだため壁が前に崩れてこないように設けられたもので様々なデザインのものが見られます。その右隣の建物の屋根は妻側が壁で隠されています。この壁は北部ヨーロッパ独特の装飾でいろいろな形があります。この形は段々なのでステップゲーブルと呼ばれます。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

この建物はハウステンボスではパサージュの入り口になっています。オリジナルは当時確か地下鉄の入り口だったはずですが今は確認できません。オリジナルは３階建てでしたが２階建に変更したため何度も変更してバランスを決めました。中に入ると広い吹き抜け空間があり２階の回廊部分など凝った作りになっています。パサージュの意味は通り抜け小路みたいな感じです。吹き抜け空間の２階両端に凱旋門の形をした花台があります。この部分のデザインをしている時にちょうどフランス建国２００年のニュースをやっていたので、記念に作りました。この建物はペディメント（破風）の形を見るとバロック建築よりひとつ前の時代のマニエリスム建築を模したものでしょうか。オランダが最も栄えた時代はバロックの時代だったのですがオランダ人はバロック建築があまり好きではなかったようです。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

ハウステンボス内では比較的道幅の狭い部分で今は屋台が出て食べ歩き街になっています。１階にショーウインドウがある建物が並んでおりオランダではこういう場所はショッピングストリートです。上部にクレーン棒がついている建物は屋根裏が倉庫になっている場合が多いです。２階建の建物では、２階の部屋は今はあまり使われていませんが、実はすべての上階空間が、店舗や住居に使えるよう設計されており、設備のパイプスペース等も作ってあります。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

ホテルアムステルダムの中庭に面した玄関です。現在中庭はお花畑になっていてもっと華やかです。ここに見える建物の装飾物だけで大変な物量で外から見えない部分をよく作ったと思います。オランダでも通りに面した建物の裏側には必ずと言っていいほど中庭があります。この建物の右側は広場に面しており左側は海に面していて、外からはひとつの大きいホテルには見えません。オランダの旧市街にもこのようなホテルがたくさんあります。一階の列柱を見ていただくとわずかに上の方がしぼんでいます。これをエンタシスと言いしぼみ具合が結構難しいのですがここでは上手くいっています。

長崎県佐世保市　ハウステンボス

ホテルアムステルダムの玄関ホールです。これほど豪華なクラシック空間を持つホテルが日本にあるとはすごいことだと思います。数々の豪華な外資系ホテルが日本にもできてきましたがここまでするのは到底無理です。この内装だけでホテルが建ちます。（少し大げさです）柱が邪魔そうだと言わないでください。

​株式会社藤井設計室

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